2012/06/25

映画館のデジタル化

私が初めて映画館の映写室に入ったのはおよそ三年前。
丁度、年末のアバターを控えて、デジタル対応の上映機材が導入されている時期だった。

その当時の映画はフィルムに格納されており、映写機にフィルムをかけることで映写していた。
運搬の都合なのか、一つの作品は複数のフィルムに分割され、映画館に届けられる。
そのため、映画の途中でフィルムを交換する必要がある。
これだと上映に手間がかかるため、多くの作品を同時に上映するシネコンなどでは、それらを一本につないでいた。
つないだフィルムは「プラッタ」と呼ばれる大きなターンテーブルに載せられ、映写機に途切れなく送りこまれていた。


一方で、3D映画や、デジタル化された2D映画は「DCP」と呼ばれる電子データでやってくる。
DCPは、ハードディスクで映画館に届けられ、サーバと呼ばれる機器の内部にあるハードディスクに取り込まれる。
サーバは接続されたプロジェクタにデータが送り、プロジェクタがスクリーンに上映する。
サーバやプロジェクタは非常に高価な機械であるため、1劇場に1スクリーンか2スクリーン、3D上映用に設置されているのが普通だった。


今日所用で、とあるシネコンの映写室にお邪魔した。
そこで見た光景は、三年前とは全く違う光景だった。

10以上あるスクリーンすべてにサーバとプロジェクタが設置されていた。
そして、プラッタはあるが、そこにはフィルムの姿がない。
良く見ると、映写機も、使える状態ではない。
そう、この間にフィルムは全廃され、すべてDCPに替わってしまったのだ。

フィルムの場合には、映画と映画の間(幕間)の時間はフィルムの準備が必要で、映写技師の方が忙しそうに働かれている。そのため、通常幕間の時間は、スクリーンごとにわざとずらし、業務が集中しないようにしていた。
しかし、デジタルの場合には、特段準備は要らないため、幕間の時間をずらす必要はない。今日の上映でも、15分の間に5スクリーン分幕間が来たと思ったら、そこから30分間、どのスクリーンも幕間にならない。フィルム時代には考えられないようなプログラムになっている。
このままいけば、まもなく映写技師なしで無人上映するようになるのも近いだろう。

これまでのフィルムがあっちこっちで回り、にぎやかな「動」の映写室が、デジタルデータだけで、要はパソコンとプロジェクタでできた「静」の映写室になっていた。
通常は土足禁止の映写室、今日は土足禁止ではなかった。確かにフィルムがなければ、土足でも大きな問題はないだろう。

でも、以前の映写室を知っている、素人の私からすると、動きがなくなったからか、少しさびしさを感じる。
ずっと映画に携わられている方々は、さらにそう感じるのではないだろうか。

ノスタルジーに浸ることをよしとするつもりがないが、効率化することで感じるさびしさ、それは大事な何かを失っているからのような気がする。いったい何を失っているのかを考え、それが問題であるのなら、きちんと意識していくようにしていきたい。